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大阪高等裁判所 昭和39年(て)126号 判決 1964年3月24日

被告人 若原英夫

決  定

(被告人氏名略)

右に対する道路交通法違反被告事件について当裁判所が昭和三九年二月一一日言渡した判決に対し、右被告人から上訴権回復の請求があったので、次のとおり決定する。

主文

本件上訴権回復の請求を許す。

理由

本件上訴権回復請求の事由は、被告人作成の上訴権回復請求書記載のとおりである。

よつて、本件記録および本案事件の記録を調査すると、被告人は、道路交通法違反被告事件につき指定された昭和三九年二月四日の第一回公判期日に、弁護人を選任することなく自ら出頭して審理を受け、判決宣告期日を同月一一日午前一〇時と指定告知されたが、医師としての職務上右期日に出頭し難い情況にあつたので、係り書記官の助言に基ずき即日判決謄本交付申請書を提出しておき、謄本による判決の了知につとめていたところ、右宣告期日に被告人不出頭のまま判決の宣告がなされたが、判決主文等の通知の手続もとられず、交付申請にかかる判決謄本は同月二四日郵便により発送され上告期間の末日である同月二五日ようやく被告人宅に届いたので、被告人は即日これに対する不服の書面を作成の上投函し、翌二六日当裁判所に到達したこと、および、右書面は上告を申立てる趣旨のものであるか否かにつきいささか疑問が存したので、当裁判所は書記官をして同年三月三日電話により被告人にこれを確かめしめたところ、上告申立の趣旨である旨の回答を得たので、これを上告申立として処理することとし、同月五日上訴期間経過の故を以て上告棄却の決定をし、同月七日被告人にこれを送達したのであるが、被告人は、これよりさき同月三日、書記官に対する前記電話回答の際の問答に示唆を受けて、あらためて上告申立書および本件上訴権回復請求書を作成郵送し、翌三月四日当裁判所に到達したものであることが認められる。すなわち、被告人は判決宣告後一四日にしてはじめて判決の内容を知り、その後一四日以内に本件上告と同時に上訴権回復の請求をしたものであることが明らかである。しかして、判決の宣告期日に出頭しなかつた被告人はみずから訴訟進行の状態を知る手段を講ずる責任あるものというべきところ(最高裁二九・九・二一決定参照)、被告人は前示のように係り書記官の助言に基き第一回公判期日終了の直後宣告期日における判決謄本の下附申請を完了し、訴訟の進行状態を知る手段を講じていたものというべく、本件上告期間の経過を以て被告人の責に帰しがたいものとせざるを得ない。結局本件上訴権回復の請求は正当であるから、主文のように決定をする。

(裁判官 井関照夫 三木良雄 杉田亮造)

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